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  ステキ作品(BL含)と声に愛を。・・・眼鏡装着、準備はOK。
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悲しくて、寂しいお話を読みました。
切ないという言葉はちょっと何か違う。
架空の人物に心から幸せを願って止まないほど、孤独感が心に刺さる作品です。


■ 木原音瀬 B-BOY NOVELS ■
「COLD SLEEP」、「COLD LIGHT」、「COLD FEVER」


以下、感想。
ネタバレは微塵も考慮してませんので、ご注意を。




事故でこれまでの一切の記憶を失った高久透は、友人だという藤島啓志に引き取られることに。
極端に無口で無表情な同居人からは、過去について一切語られることはなく、透は自分の居場所を見つけられない。
やがて共に暮らすうち、藤島の中に不器用な優しさを感じ惹かれていくが…。

…というあらすじ。
COLD SLEEPでは、高久透の視点から失った過去を探すことになります。
自分を知る唯一の人、藤島は頑なに何も教えてくれない。
生真面目で不器用で無表情だとばかり思っていたけれど、決してそうではなく、心から自分を気遣い大切にしてくれているのだと知る。

そんな藤島に徐々に惹かれていき、藤島も自分のことを好きなのではと思い始める透。
けれど、藤島は透の愛情を拒み、受け入れようとはしないんですね。
なぜ、どうしてと透の視点で困惑し、失った過去の何を一体藤島は隠そうとしているのか。
焦れながらも、溢れる愛情は止められず…。
ドラマチックな展開にぐいぐいと引きこまれて、気づくと読破していました。

後半、最後の最後に透が犯した罪が明かされますが、藤島がそこまでして透を庇おうとした理由は詳しく語られないままに、終わってしまいます。
これが気になって気になって…翌日、続巻を買いにメイトに走っていました(笑)。


この物語は三巻で完結しますが、共通するテーマは 「自分の居場所」 なのだと思います。
シリーズ1巻目は、記憶を無くした透が自分の居場所を求めさまよい、ようやく見つけ始めたお話。
とにかく、「記憶とは自分にとって何だろう」と考えずにはいられなくなります。
自己を認識するための材料が一切ない、白い世界にいきなり放り出される恐怖…。


次巻「COLD LIGHT」では視点が藤島に変わり、唐突に真相が判明します。
自分を好きだと言う透を受け入れられない…いや、受け入れては「いけない」理由。
それがあまりにも想像を絶する境遇で、ただただ藤島を思って涙が零れました。

藤島の過去には、圧倒的な絶望と諦め、そして透に対する罪悪感しかありません。
そういう人生しか許されなかった彼が、命に代えてでも透を守ろうとする気持ちは、罪悪感や愛情といったものを越えて、もっと奥に存在していました。

恋人としての愛情ではなくて、母性に近い愛…ひたすらに幸せになってほしいという願い。
「願い」と言ってしまうには軽すぎて、悲しくて悲しくて、つらくて切なくて、また涙が溢れました。
こんなに優しい人がどうして幸せじゃないんだろうと、そのことばかりを考えました。

好きだと言ってくれる人を受け入れても、記憶が戻ったらまた憎まれるかもしれない。
憎んでいた相手と心を通わせたことで、透がどんなに傷つくことになるか。
そして、始まった関係がなかったことにされのならまだしも、一度愛される幸福を知ってしまったら。
後に残されるのは、また絶望しかない。

藤島の苦悩と葛藤が痛いほどせめぎあい、読む側も生傷を抉られるのと同じように苦しいです。
木原作品は苦しみの描写が秀逸で、まるで同じ境遇を味わったことがあるのではと思えるほどに生々しく、読んでいるととても辛くなります。

愛情というものを教えられて捨てられるのと、最初から知らないのとでは、果たしてどちらが不幸なんでしょうね…。
おこがましくも、かつて自分の創作でもこんなセリフを書いた気がします。
思うに、人間は欲張りだから、失えばまた欲しくなり、なければ求めようとする生き物です。
だから、比べるべくもないものかもしれません。どちらも味わう苦しみは同じなんですから。

それを乗り越えようとしたとき、藤島はやっと透を受け入れることができました。
100%の幸福が待っているはずがないのを、分かっていても。

「COLD LIGHT」は、藤島が、愛する者の傍に自分の居場所を許すまでのお話です。
幸せを幸せのままにしておきたい場合は、ここで読むのを止めたほうがいいかもしれません…。


最終巻「COLD FEVER」の冒頭で、なんの前触れもなく透の記憶は戻り、その代わり事故後の6年間の記憶はすっかり失われていました。
当然のことながら藤島と過ごした時間も、新しい夢を見つけて実現させたことも、何もかもです。

かつて憎んで殺してやりたいとまで思っていた相手と、愛情を通わせていた事実。
周囲から愛されていた自分の知らない自分に戸惑い、苛立つ透。
素直で明るく優しかった6年間とは正反対に、事故前と同じく荒み暴力をふるう自分…。

再び透視点で描かれるこの巻は、2巻以上に辛いです。
透が、拒絶と依存という相反する居場所を自分自身が認めていく過程を描いた、もっとも過酷な内容でした。

憎んでいた相手なのに、藤島がいないと恐ろしいまでの不安と孤独感に苛まれ、何もできない。
そんな気持ちを認めたくなくて、苛立つ気持ちを暴力という形で藤島にぶつける透の気持ち。
そうなった理由は自分が作った。 だから、ありのままを受け止め、傍にいるという藤島の覚悟。

そんな姿を垣間見るたびに、気がついたら今度は「どうして二人とも幸せになれないんだろう」と、そればかりを考えながら読んでいました。
ふたりの感情が痛いほど伝わってきて、ここでもまた悲しくなりました。

結末から言えば、透は6年間の記憶を取り戻すことはなく、自己で記憶を失う前のかつての透のまま、藤島と共に生きていきます。
愛情表現の形は変っても、透は藤島を愛しているんだなと、そのことは頭で納得しても、これで本当に二人が幸せになったのかということにおいては疑問のまま読み終わりました。
現実とは違い、小説の世界では大団円で終わることを願ってしまうので。

優しくてひたむきに愛情を注いでいた透の方を、藤島はやっぱり愛していたんじゃないかと。
元に戻って欲しいと願っているんじゃないかと、そう思ったんですね。
けれど、また最初から読み直してみると、決してそうではないんだと納得できました。

事故後、記憶を失ってから6年間の優しい透は、もし藤島が幼い頃の透を裏切っていなかったらそうなっていたかもしれない、本来の透の姿なのかもしれません。
だからこのときの透に愛されていても、心の底から藤島は幸福を納得できなかったんじゃないかと。
…ちょっとややこしいですが(笑)。

記憶が戻った透に必要とされることで、ある意味、藤島の罪悪感が癒されていくんじゃないか、そうなったらいいなと思います。
私としては1~2巻のころの素直で無邪気な透が可愛くてしかたなかったので、また記憶がなくなればいいのに…と、ふと考えたりもしましたが(笑)。

境遇が似ていて、だから惹かれ合った。
透と藤島、どちらも加害者で被害者だけど、ふたりとも何も悪いことなんかない。
これまでの過程を思い返してみても、ふたりは一生を寄り添って生きていくだろうと確信はしても、この穏やかな幸せがいつまでも続きますようにと、強く願わずにはいられない。
そういう、お話でした。



「美しいこと」 の読後もしばらくボーっとしてたけど、このCOLDシリーズはその上を行きました!
あったかくほんわかした感じじゃないんです。
何度も書いた通り、「悲しい」…そういう気持ちに襲われました。
あ、まだ進行形ですね(汗)。

決して甘くはない作品なので好みは大きく分かれると思いますが、ちょっとでも気になったらぜひ大勢の人に読んで欲しいと思いました。
この余韻…しばらく引きずりそうです(笑)。

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